作品情報
タイトル:ゴリオ爺さん
出版社 :岩波書店
作者 :オノレ・ド・バルザック
公開年 :1835年
ジャンル:イギリス文学・悲劇
本作は19世紀フランスの作家のオノレ・ド・バルザックによる、王政復古時代のパリを舞台とした小説である。
作者について
オノレ・ド・バルザック(1799-1850)はフランス中部の都市トゥールで生まれる。
1814年、父親が第一師団の兵站部長に任命されパリに移り住む。
1819年、父親の退職とともにパリの北東にあるヴィルパリジの町へ引っ越すことになった。
バルザックは両親の期待のもと弁護士の勉学に励んでいたが、ヴィルパリジへの引っ越しを機に
弁護士の道を捨て、両親の反対を押し切りって一人パリに留まり文筆活動に勤しんだ。
両親とは2年の期限で成果を出す約束をしていたが作品は評価されず、1821年にヴィルパリジに移り住む。
ヴィルパリジでは貴族階級に属していたベルニー夫人から宮中や貴族社会の思想・文化の教えを受けた。
市民階級で育ったバルザックには貴族階級としての経験・文化が欠けていたが、ベルニー夫人の教えにより市民・貴族の両文化を兼ね備えた作家に成長を遂げている。
尚、ベルニー夫人はルイ16世付きの竪琴手を父に、マリーアントワネットお気に入りの侍女を母に持つ、優れた教養と文芸界隈への影響力を持つ女性である。
バルザックは私生活では贅沢好きな浪費家で常に借金に追われた生活を送っていた。
作家としては妥協を許さずない完璧主義で、推敲を重ねに重ね、校了時には初稿の文字が一文字も残らない事も多々あった。
バルザックが生涯にわたり優れた作品を生み出し続けられたのは、公私ともに並みならぬ情熱を注げる行動力がバルザックの天才性と相まったものと思われる。
バルザックと関わりのある文豪としてヴィクトル・ユーゴー(代表作:レ・ミゼラブル)、アレクサンドル・デュマ(代表作:三銃士)が挙げられる。
作品の背景・用語
時代
ルイ18世(在位:1814-1824)の統治する王政復古時代のフランス。
ゴリオ爺さんは製麺業者の仕事のかたわら、フランス革命中は地区委員長となり自らの商売を守り育てた。
フランス革命後の総裁政府(1795-1799)やナポレオン帝政(1804-1814)の時代は地区委員長の肩書がものを言ったが、
王政復古時代(1815-1830)になると地区委員長であった経歴が娘婿に煙たがられ、商売を辞める原因となった。
王政復古時代
ナポレオン没落(1814)から七月革命(1830)までのブルボン朝による政治体制である。
王政復古時代は革命以前の貴族・大土地所有者を優遇したため、ナポレオン帝政時代に出世した軍人、市民の側に立った政治家の反感を買った。
百日天下と言われる1815年のナポレオンの帰還では、ナポレオンに寝返る軍人が続出するなど、軍事基盤も弱かった。
19世紀フランスの貨幣制度
1803年のジェルミナール法で1フラン=金0.29グラムとなっている。
金の価値から当時の1フランは500円程度だが、現代と物価が異なるため単純には比較できない。
参考までに作中に出てくる金額を1フラン=500円として下記に記載する。
・ゴリオ爺さんとウージェーヌの1ヶ月の下宿代(食費込み) :45フラン(22,500円)
・ヴォートランが飲んでいるブランデー入りコーヒー1ヶ月分 :15フラン(7,500円)
・ウージェーヌの実家(地方の貧しい小領主)の年収 :3,000フラン(150万円)
・ウージェーヌへ実家からの仕送り(1年分) :1,200フラン(60万円)
・ヴォートランが配達夫へ渡したチップ :1フラン(500円)
・ゴリオ爺さんから二人の娘への持参金 :60万フラン(3億円) ※ウージェーヌの実家の年収200年分
登場人物紹介
ウージェーヌ・ド・ラスティニャック
本作の主人公。
田舎の貧乏男爵の長男。
法律の勉強のためパリへ出てきてヴォケェ夫人の下宿に住む。
パリ社交界の醜い裏側やゴリオ爺さんの悲惨さ最後から社会の無常さを感じるも、自らの運命をカタに社会に挑戦するのであった。
ゴリオ爺さん
本作のもう一人の主人公。
引退した麺類・澱粉の製造業者。
一代で巨万の富を築いた抜け目ない商売人だったが、娘二人から仕事を辞めるように言われ、ヴォケェ夫人の下宿に引っ越す。
娘二人を甘やかして育てた結果、娘達から金をせびられ破産、貧困のうちに最期を遂げる。
アナスタジー・ド・レスト―伯爵夫人
ゴリオ爺さんの長女。
容姿に優れレスト―伯爵から求婚されて妻となる。
不倫相手のマクシム伯爵の借金を肩代わりしたことが原因で破滅してしまう。
デルフィーユ・ド・ニュシンゲーヌ男爵夫人
ゴリオ爺さんの次女。
お金に対しての執着が強く、ドイツ人銀行家のニュシンゲーヌ男爵の妻となる。
社交界へのあこがれが強く、浪費家でもあり夫と不仲となる。
ウージェーヌを愛人とする。
ヴォケェ夫人
下宿の女主人。丸々と太った自称30代(実際は50代)の未亡人。
欲深く自分に関心を示さないゴリオ爺さんに辛く当たる。
ヴォートラン
快活で金払いの良い40歳過ぎの男性。
ウージェーヌ達と同じ下宿に住んでおり、豊富な知識と親切あふれる頼もしい人物だが、強い意志と人の秘密を見通すような鋭い視線から畏怖されている。
好意を抱いたウージェーヌを大金持ちとすべく、ウージェーヌに資産家の娘ヴィクトリーヌとの結婚を勧める。
ヴィクトリーヌ・タイユフェル
大金持ちだが性格が悪い父親を持ち、母親の財産をすべて奪われて貧しい暮らしを送っている。
ウージェーヌに恋心を抱くも、ヴォートランの計略による彼女の兄の死と、ヴォートラン逮捕のいざこざにより下宿を離れ、ウージェーヌとは別れてしまう。
あらすじ
法律の勉強のためパリへ出てきたウージェーヌは、立身出世のために自分のうしろだてとなる貴婦人を探す中、ゴリオ爺さんの次女デルフィーユと恋仲になる。
途中、デルフィーユに捨てられたと思いヴォートランの勧めでヴィクトリーヌとの結婚も考えるも、デルフィーユが自分を愛していることを知る。
また計画を進めていたヴォートランの逮捕によるいざこざで結婚は立ち消えとなる。
ゴリオ爺さんは二人の娘の幸せのために財産を処分し続けたため無一文となり病を得る。
ゴリオ爺さんはウージェーヌ達から献身的な看病を受けるも、無一文の自分では娘たちを苦境から助け出せない絶望から、病を悪化させ苦しみ抜いて亡くなる。
ウージェーヌは娘達に尽くした挙句、娘たちに捨てられたゴリオ爺さんの姿に社会の無常さを感じるも、自らの運命をカタに社会に挑戦するのであった。
読んだ感想
田舎からパリに出てきたウージェーヌは他人への優しさを持っていたが、パリ社交界の中で狡さを覚え、悪徳の道に踏み込みそうになる様が、読み手の興味を掻き立てる内容となっている。
人物や場景の描写は巧みで、作品と読み手の国と時代は違っても場景を容易に想像でき自然に読み進めることができる。
欠点はゴリオ爺さんの悲惨な死で終わるため、作品としては興味深く読めるが、何か物悲しく感じてしまう。